2023-01-01から1年間の記事一覧

ペーター・ハントケとともに

「……あなたも、周りの世界がただあなたの傍らを踊りながら通りすぎるように仕向けているように見える。あなたはいろいろな経験に巻き込まれる代わりに、それを目の前でただ上演させている。……」 ──ペーター・ハントケ「長い別れのための短い手紙」 時間の海…

小児性愛者の悲劇的な運命への同情

手回しよいことに、彼女がパンティを着けていなかったのにはびっくりした……。いくらか苦労して、ぼくは男になったのだが、想像していたような歓びと解放感はなく、その代わりに、[…]その午後に関わる一切に対する嫌悪しか感じられなかった。 ──ミルチャ・カ…

幸せになれるふくふくコーヒーが約束するような「幸福」の甘やかなフレーバー

ある種の記憶は痛むが、別の種の記憶は痛まないのではない。記憶はそもそも全て痛む。 ──國分功一郎 寒い休日だった。15時ごろ、朝食を切らしていることを思い出しつつ2度目の目覚めを迎えてベッドから這い出し、シャワーを浴びた僕は、「パンとコーヒーとひ…

疲労を享楽すること。

死を迎える技法は[生を個人の有意義な人生として]物語ってくれるものであったが、そうした技法が失われることで、私たちはこの剥き出しのたんなる生を、なんとしても健康に維持しなければならなくなる。ニーチェが語ったように、神が死んだあとでは健康が女…

だが友よ、諦めてはいけない。

その日 人類は思い出した ヤツらに支配されていた恐怖を… 鳥籠の中に囚われていた屈辱を…… ──諫山創 とにかく喉が痛い。先週、教室の最前列でやたらゲホゲホ咳をしている生徒がいたから(まずいな〜)とは危惧していたが、案の定である。それにしても最寄り…

あまりのバイタリティに唖然として

仕事にたいする私たちの見方は、最終的に現世での生を超えて伸びひろがってゆくことになる。どうやら私たちには、世界に爪あとを残して自分にはほかの人たちとちがうところがあることを示したいという欲求があるようだ。 ──ラース・スヴェンセン やはり人間…

まあなんというか、我々にとってそれは住みにくい世間となりますわね

「なんかさ…だめだよ…オレ……社会的にまったく通用していない気がする……」 ──福満しげゆき 冬の香りを運ぶ冷気がやさしく頬を撫ぜる季節となってまいりました。個人的なことを申せば──いや、ここに個人的でないことを書く日はきっと訪れないでしょうが──この…

それは往々にして喜劇的なものにさえなる。

「……ねえ坊や、あたしの坊や、あたしがあなたを愛していないとか、愛さなかったなんて思わないでね。あなたを愛していたからこそ、もしあなたがずっと生きていたら、今のあたしにはなれなかったのよ。子供をもちながら、あるがままのこの世の中を軽蔑するこ…

古井由吉の小説は、珠にまといつく光のように濃やかで……

「宇宙の複雑さに比べれば」とハートフィールドは言っている。「この我々の世界などミミズの脳味噌のようなものだ。」 そうであってほしい、と僕も願っている。 ──村上春樹 西暦によって決められ時計技術によって支えられる現代社会のカレンダーの進行の上で…

淑やかで上品なお嬢様と日の沈む静かなカフェーで

人間の偉大さは、自分がみじめであることを自覚しているところにある。 ────ブレーズ・パスカル ドロステのチョコレートをご存知だろうか。六角柱のパッケージに入っていて原産国名がオランダと表記されているチョコレートである。綴りはDroste. 生家は洋物…

生誕から遠くはなれて

10月2日。昼過ぎに起床し、四条〜三条河原町のほうまで京阪電車で出かける。夕食はスパゲティ。本当は鮨を食べたいような気がしていたのだけど、「鎌倉パスタ」の看板を見たときに和風パスタを食べるという考えに傾き、そのまま入店。魚介のカルボナーラ。頼…