だが友よ、諦めてはいけない。

その日    人類は思い出した

ヤツらに支配されていた恐怖を…

鳥籠の中に囚われていた屈辱を……

──諫山創

 

とにかく喉が痛い。先週、教室の最前列でやたらゲホゲホ咳をしている生徒がいたから(まずいな〜)とは危惧していたが、案の定である。それにしても最寄りの診療所は土曜日だけが耳鼻咽喉科で他は内科、またやや離れた耳鼻科は完全予約制で急な外来は診察不可といったふうに、近所はこういう喉風邪、鼻風邪を診てくれる手頃な診療所に乏しい。一体、近隣住民はこういうごく簡単な風邪の症状の際にはどう処置しているのだろう?    もしかして熱が出ないかぎり病院なんかには行かないのかしら?    しかし、発熱の際は事前に申告のうえご来院くださいとは実は新型コロナウイルス感染症流行前から一部の診療所に見られた掲示だ。病院って熱が出るから来る場所だと思っていた僕はこの掲示にたいそう驚いたものだ。その上、今回は耳鼻科不足ときたもんだ。いったい風邪というのはいい歳をした大人はひかないことになっているのだろうか。

と、考えたところで、もしかしたらそうなのかもしれない、と思う。「体調管理も仕事のうち」だとか、「休むのも仕事のうち」だとかのたまう輩が世間には跋扈し、「社会人」を代表したみたいなツラを下げて僕みたいなペーペーの若造をとっ捕まえて説教を垂れる仕儀である。なにしろ彼らは「異星人」や「半魚人」等と並んで知られる「社会人」の血統に属しているわけだから、あいにくわれわれ人間の価値の尺度は通用しないのだ。おまけに猫が猫自身を人間と勘違いして人間に命令を下すがごとく、「社会人」は「社会人」自身を人間と勘違いしてわれわれに命令を下すのだから始末に負えないものである。

いま、僕らはお互い顔も知らぬ同胞たちと「社会人」の集団に紛れて参与観察を行っている。確かに、「社会人」はいまや地球規模に拡大する巨大勢力であり、われわれは劣勢に立たされている。だが友よ、諦めてはいけない。人間はまだ絶滅してはいない。生き残ったわれわれは世界に散らばりながらネットワークを形成している。われわれは現状、生態学者であることを余儀なくされているとともにパルチザンでもあり、またスパイでもある。耐え難きを耐えし仲間たちよ、ともに闘い、われわれの明日を勝ちとろう。この通信投壜が未だ顔も知らぬ地上の同胞の手許に届くことを願っている。